「好き」を発信する

オタクのブログ

理想の主人公とは誰のこと? 『西野~学内カースト最下位にして異能世界最強の少年~』感想

理想の主人公像とはどういったものでしょうか。

ライトノベルを嗜むオタクな皆さんなら、こう聞かれたとき、ありがちな主人公像としていくつか思いあたるものがあるでしょう。
俺TUEEEE系主人公、やれやれ系主人公、鈍感系主人公……

すぐにあがるのはこのあたりでしょうか。

 

ライトノベルではヒロインの性格や見た目ばかりが重視されがちですが、実は主人公のキャラクターもラノベをヒットさせるための大きな要因になっているのではないかと私は思います。
考えてみれば、ライトノベルの読者の中には主人公に自己を投影して、その行動原理に共感したり、活劇のシーンで興奮したりする人も多くいるわけですからこれは当然です。
読者が所謂「萌え」を感じるのはヒロインに対してですが、読者が自己投影するのはヒロインではなく、それと結ばれるであろう主人公であるのですから、主人公が魅力的でなくては困るわけです。

 

物語を読んだ読者が、主人公の行動原理にまるで共感できない場合や、活劇のシーンが当初の設定から見て矛盾が生じるものである場合、読者はすぐに物語の世界から現実に引き戻され、本の頁を捲る手を止めて、現実に帰っていってしまうでしょう。そして二度と戻ってくることはありません。

 

従って、時にライトノベルの主人公は、表紙を大きく飾る貧乳金髪ロリータガールよりもしばしばその物語にとって重要なファクターとして我々の前に立ち現われるわけです。

 

今回、紹介するライトノベル、「西野~学内カースト最下位にして異能世界最強の少年」もまた、主人公がとても魅力的なライトノベルです。

f:id:otadano:20180524014512j:plain

西野 ~学内カースト最下位にして異能世界最強の少年~

 

内容について話をする前に、突然ですが、ここでこれを読んでいる皆さんに問いかけたいことがあります。

 

皆さんは所謂『イケメン』ですか?

 

具体的には二重瞼で、歯は黄ばみが一つ見られないほど白く輝いていて不揃いなものは一本もなく、顔のサイズは日本人平均よりもやや小ぶりで、小さい頃お父さんに連れられて通ったカット2000円の理容室を卒業して、お洒落な人種が経営するカット5000円の美容室に行き、きちんとファッションカタログを読んで美容師と相談した上で自分に似合う髪型を選んでいますか?

 

いついかなる時も場を盛り上げるトークスキルを磨くことを忘れず、周囲の人間を楽しませていますか?
カメラを持った雑誌編集者に渋谷や原宿で声をかけられ、読者モデルを経験したことがありますか?

もしここまで聞いて自分は『イケメン』だと躊躇なく断言できる方はとても幸せな人です。
是非そのアドバンテージを活かして今後の人生をより有意義なものへと変えていってください。

逆にここまで読んで自分は『イケメン』ではないと思ったフツメンのみなさん、共に頑張りましょう。今挙げた例の中の行動面に関する事柄について言えば、フツメンにもやれる事がある筈です。

 

しかし悲しきかな。生まれ持った顔というものはどうしようもありません。遺伝子というものは無情であり、外的要因を考慮に入れなければ、人の顔の骨格というものは生まれつき決定しています。
勿論、太っている人がやせたり、日々をポジティブに過ごしてよく笑うことで表情筋を鍛えたりして顔の印象を変えることはできるでしょう。
しかしそれでも、すべての人間が整形手術を抜きにした努力で雑誌やテレビで持て囃されているような人気俳優並のルックスを手に入れ、『イケメン』になれるかと言うと、やはり疑問が残ります。

 

さてなぜこんな話をしたかというと、このライトノベルの主人公、西野が所謂『イケメン』ではない『フツメン』だからです。

本文の説明によると、西野は

出で立ちは極めて普通の日本人。都内に所在する高等学校指定の制服姿。一重まぶたに不揃いの歯、やや突出した頬骨。髪型は彼くらいの年頃の男が美容室や床屋に行き、何も言わずに長さだけ伝えたら、そうなるような髪型

であるということです。普通です。日本のあらゆる教育機関の教室にいくらでもいそうな男子です。
しかし、そんな西野の内面はその外見に反して全く普通ではありません。

 

まだ学生である西野が裏で行っている仕事は、不思議な力、異能を用いて要人の護衛を行うなどといった裏稼業です。

殺すか殺されるかの環境に身を置き、気取りたがりの裏稼業の人間とつきあっている影響もあってか、西野の口調は普通ではありません。

 

例えば、彼がビッチだと言って嫌っているフランシスカという金髪美女に仕事を頼まれたときは、

フランシスカ、俺はアンタの顔がこの世で五番目に嫌いだ。ちなみに六番目に嫌いなのはジョージ・ブランメル肖像画だ。あれは人を馬鹿にしている

と気取った言い回しをして追い払います。この台詞、私なんかはカッコイイと感じてしまうのですが、それはあくまでイケメンが言っている場合であって、やはりフツメンの西野がこれをいっていると考えるとどこかおかしさを感じてしまいます。実際、フツメンの友達が大真面目にこんな喋り方をしていたら私は笑ってしまいます。
そしてそれが何度も繰り返されるようであれば、やがてそのおかしさは苛立ちの元へと変わっていくでしょう。

f:id:otadano:20180524011941j:plain

参考:ジョージ・ブランメル肖像画

 

しかし、西野はふざけているわけでもなんでもなく、大真面目にこの喋り方をしていて、普段通っている教室でもこの調子なので、当然、聞いているクラスメイトは鬱陶しく、西野との距離を置こうとします。そうした経緯で西野は「学内カースト最底辺」になってしまったわけです。

 

これはそんな自らの状況に危機意識を持った「学内カースト最底辺」の西野が異能の力を使ってクラスメイトの危機を救っていき、学内カーストを一気に駈け上ろうとしたり、やっぱり無理で転がり落ちたりする話……ときくと、皆さんはこの物語に救いがないと思うかもしれません。

 

実際、西野は人間としては根本的な部分が良い人であるため、その報われなさに読者は同情することになるでしょう。

 

しかし、一巻のラスト、そんな彼にも救いがあります。いや、これは救いではなく真逆の呪いといった方が良いのかもしれません。
何故なら、数ヶ月前、クラスに転校してきた「同業者」の金髪女子は……。

 

この続きはWEB版なり、書籍版なりの方で確かめてもらうとして、最後にこれだけは言っておきます。

 

これはすべてのフツメンに捧げられた、フツメンの物語です。

 

西野の顔は普通です。しかしそれでも西野は魅力的な主人公なのです。今日び、西野のような気取った言い回しをするラノベ主人公は腐るほどいます。
しかしそれらの多くは、物語中でヒロインが「なによ……顔がちょっと良いからって……」などとぼやいて暗に主人公がイケメンであることを示唆します。
それは悪いことではありません。主人公がカッコいいのはいいことですから、私としても普段はそちらを読みます。

 

ですが、たまにはイケメンではないフツメンの話も読みませんか。このライトノベルに出てくるヒロインが可愛いのは勿論のこと、スクールカースト上位のイケメンに比べて外見にディスアドバンテージを持ちながらも、決して腐ることなく前向きに物事を捉えようとする西野は、ある意味、見方によってはカッコいいのです。